訪問リハビリ・訪問看護のセクハラ事例と対策|カスハラ義務化

「訪問中に利用者から体を触られた」「家族から性的な冗談を繰り返し言われる」——訪問リハビリや訪問看護では、利用者の自宅という密室に近い環境で、スタッフが一人で対応する場面が多くあります。そのため、セクシュアルハラスメント(セクハラ)を受けても、その場で助けを求めにくく、「仕事だから」と我慢してしまう人が少なくありません。
この記事では、訪問系サービスで起こりやすいセクハラの具体例と、スタッフ個人ができる対処法、事業所として取り組むべき対策を整理します。2026年10月から事業主に義務づけられたカスタマーハラスメント対策や、運営基準で求められるハラスメント対策もあわせて解説します。
- 訪問リハビリ・訪問看護で起こりやすいセクハラの具体例
- セクハラを受けたときにスタッフができる対処法
- 2026年10月から義務化されたカスタマーハラスメント対策の概要
- 事業所として整えるべき方針・相談体制・発生時の対応
- 利用者の病気や障害が背景にある場合の考え方
訪問リハビリや訪問看護で起こりやすいセクハラ
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 身体への接触 | 介助中や訓練中に胸やお尻を触られる、抱きつかれる、手を握って離さない |
| 性的な発言 | 体型や容姿についての発言、性的な冗談、交際や結婚についてしつこく聞かれる |
| 環境によるもの | 訪問時にわいせつな画像や雑誌が見える場所に置かれている、露出の多い服装で待っている |
| つきまとい・私的な連絡 | 個人の連絡先を聞かれる、訪問以外の日に会おうと誘われる |
| 家族からの言動 | 利用者の家族から性的な発言や接触を受ける |
訪問系サービスは、利用者宅という閉ざされた空間で、スタッフが一人で対応するため、施設や病院に比べて周囲の目が届きにくいのが特徴です。被害を受けたスタッフが「自分の対応が悪かったのでは」と感じて、誰にも相談できないこともあります。

軽く触られたくらいで報告するのは、大げさな気がして……。

大げさじゃないよ。小さなことでも、繰り返されたり、エスカレートしたりすることがある。それに、ほかのスタッフも同じ目に遭っているかもしれない。報告することは、自分だけでなくチームを守ることにもつながるんだ。
セクハラを受けたときにスタッフができる対処法
- その場ではっきり伝える「やめてください」「それは困ります」と短く伝えます。身の危険を感じたら、訪問を中断してその場を離れてかまいません。
- すぐに事業所に報告する訪問後、できるだけ早く管理者に報告します。一人で抱え込まないことが最も大切です。
- 記録を残す日時、場所、相手、言動の内容、その場の対応、目撃者の有無を記録します。後から事実を確認するための大切な資料になります。
- 心身のケアを優先する強い不安や恐怖が続く場合は、休むことや、専門の相談窓口・医療機関への相談も検討しましょう。
セクハラへの対応は、スタッフ個人ではなく事業所の責任です。「うまくかわすのもプロの技術」といった考え方で、スタッフに我慢を強いてはいけません。
記録の書き方の例
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 日時・場所 | 10月5日 14時20分頃、利用者宅の居間で歩行練習中 |
| 相手と言動 | 利用者A様が、腰を支えていた際に臀部を2回触った |
| その場の対応 | 「やめてください」と伝え、練習を中断。体調確認のうえ予定より10分早く退出 |
| 目撃者・同席者 | なし(家族は外出中) |
| 報告 | 15時10分に管理者へ電話で報告 |
感情ではなく事実を具体的に書くことがポイントです。記録は事業所内で適切に管理し、本人の同意なく関係のない人に共有しないよう注意しましょう。
2026年10月から義務化されたカスタマーハラスメント対策
令和7年の労働施策総合推進法などの改正により、2026年(令和8年)10月1日から、事業主にカスタマーハラスメント対策が義務づけられました。カスタマーハラスメントとは、顧客や施設の利用者などが行う、社会通念上許容される範囲を超えた言動により、労働者の就業環境が害されるものをいいます。介護サービスの利用者や家族によるハラスメントも、この対象として考える必要があります。
厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)にもとづき、事業主には主に次のような雇用管理上の措置が求められます。
| 措置 | 訪問リハビリ事業所での具体例 |
|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | ハラスメントを許さない方針を定め、スタッフに周知する。重要事項説明書などで利用者・家族にも伝える |
| 相談体制の整備 | 相談窓口と担当者を決め、訪問中でも相談しやすい連絡手段を用意する |
| 発生時の迅速・適切な対応 | 事実関係を確認し、被害を受けたスタッフへの配慮(担当変更、複数人訪問など)と再発防止策を講じる |
運営基準でもハラスメント対策が求められている
介護サービスの運営基準でも、職場における性的な言動や、優越的な関係を背景とした言動によってスタッフの就業環境が害されることを防ぐため、方針の明確化などの必要な措置を講じることが事業者に求められています。カスタマーハラスメント対策の義務化とあわせて、事業所の方針や体制を見直しましょう。
事業所として取り組むべき対策【実践編】
| 場面 | 取り組みの例 |
|---|---|
| 契約時 | 重要事項説明書や契約書に、ハラスメント行為があった場合の対応(訪問の中止、契約の見直しなど)を記載し、説明する |
| 担当の決め方 | 過去にトラブルがあった利用者には、同性のスタッフや複数人での訪問を検討する |
| 情報共有 | ハラスメントのリスクがある利用者の情報を、担当者間とケアマネジャーで共有する |
| 発生時 | 管理者が事実確認を行い、利用者・家族に事業所として申し入れる。改善がない場合はケアマネジャーや保険者とも相談する |
| 研修 | ハラスメントの定義、対処法、報告の流れを定期的に学ぶ |
管理者が報告を受けたときの対応手順
- 被害を受けたスタッフの安全と心身のケアを優先する話をよく聞き、責めるような言い方をしないことが大切です。必要に応じて休みや担当の変更を提案します。
- 事実関係を確認するスタッフの記録をもとに、日時や状況を確認します。ほかのスタッフに同様の被害がなかったかも確認します。
- 対応方針を決める利用者・家族への申し入れ、担当の変更、複数人での訪問、ケアマネジャーとの共有などを決めます。
- 利用者・家族に伝える事業所として、ハラスメント行為をやめるよう伝え、改善がない場合の対応も説明します。
- 再発防止策を共有する事例を匿名化して事業所内で共有し、方針や研修の見直しにつなげます。
利用者の病気や障害が背景にある場合
認知症や高次脳機能障害などにより、利用者が自分の言動をコントロールしにくい場合もあります。その場合でも、スタッフが被害を我慢する必要はありません。病気や障害の特性を理解したうえで、関わり方や環境を工夫しつつ、医師やケアマネジャーと情報を共有し、事業所として対応しましょう。
- 介助の際の立ち位置や手の位置を工夫し、接触の機会を減らす
- 家族が同席できる時間帯に訪問する
- 主治医やケアマネジャーに状況を伝え、対応を相談する
セクハラを防ぐための日頃の工夫
- 個人の連絡先や私生活の情報は伝えない(連絡は事業所を通す)
- 訪問中の連絡手段(携帯電話)をすぐ使える場所に持つ
- 訪問予定と終了時刻を事業所と共有し、連絡がない場合の確認ルールを決める
- 違和感を覚えたら、小さなことでも管理者に共有する
よくある質問
セクハラを理由に訪問を中止してもよいですか?
身の危険を感じる場合は、その場で訪問を中断して安全を確保してください。その後の訪問の継続や契約の見直しは、事業所として事実を確認したうえで判断し、ケアマネジャーとも相談しましょう。
男性スタッフもセクハラを受けることはありますか?
あります。性別にかかわらず、性的な言動による被害は起こりえます。男性だから我慢すべき、ということはありません。同じように報告し、事業所として対応してもらいましょう。
事業所に相談しても対応してもらえない場合は?
都道府県労働局の総合労働相談コーナーや雇用環境・均等部(室)などの公的な相談窓口に相談することができます。一人で抱え込まず、外部の窓口も活用しましょう。
ハラスメントがあった利用者の訪問を、事業所は断れますか?
介護保険のサービスは正当な理由なく提供を拒んではならないとされていますが、スタッフの安全が確保できない場合などは、事業所として対応を検討する必要があります。いきなり契約を終了するのではなく、申し入れ、担当変更、複数人訪問などの対応を重ね、ケアマネジャーや保険者とも相談しながら判断しましょう。
カスタマーハラスメント対策の義務化で、小規模な事業所も対応が必要ですか?
事業主に義務づけられた措置のため、規模にかかわらず対応が必要です。方針を定めて周知し、相談窓口を決めるなど、できるところから体制を整えましょう。
まとめ|訪問系のセクハラは「一人で我慢しない」「組織で対応する」
訪問リハビリや訪問看護では、利用者宅で一人で対応するため、セクハラの被害が見えにくく、相談しにくい環境があります。被害を受けたら、その場ではっきり伝え、すぐに報告して記録を残しましょう。2026年10月からはカスタマーハラスメント対策が事業主の義務となりました。方針の明確化、相談体制の整備、発生時の適切な対応を、事業所として進めることが求められています。
- 訪問系サービスは密室で一人で対応するため、セクハラが見えにくい
- 被害を受けたら、はっきり伝える・すぐ報告する・記録を残す
- 2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務に
- 方針の明確化と周知、相談体制の整備、発生時の迅速な対応が求められる
- 病気や障害が背景にあっても、スタッフが我慢する必要はない
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)
※2026年10月時点で確認した情報です。制度は改定されるため、算定・運用の際は最新の通知・Q&Aと指定権者(都道府県・市町村)の案内をご確認ください。

