訪問リハの急変時対応|パターン別の動き方と備え

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訪問リハビリは、利用者の自宅や施設で行うサービスです。対象となるのは高齢者や慢性疾患を抱える方が多く、リハビリ中に健康状態が急変するリスクは常につきまといます。病院と違ってその場に医師や看護師がいないことも多く、最初に対応するのはセラピスト自身です。この記事では、訪問リハの現場で起こり得る急変のパターンと、その対応例を整理します。
- 訪問リハで急変対応スキルが重要な理由
- 意識消失・呼吸困難・心停止・転倒・精神症状の対応例
- 急変時に落ち着いて動くための共通の手順
- 普段から備えておきたい準備
- 急変に備えるおすすめの本・グッズ
訪問リハで急変時対応が重要な理由
訪問リハビリの現場では、その場にいる専門職がセラピスト1人だけ、というケースが少なくありません。急変時に最初に対応するのはセラピスト自身であり、その初動が利用者の予後を大きく左右します。
「自分は看護師ではないから」と対応をためらってしまうと、救急要請や心肺蘇生の開始が遅れます。リハビリ専門職であっても、一次救命処置(BLS)の基本と、急変パターンごとの動き方を理解しておくことが、利用者の安全に直結します。

もし訪問先で利用者さんが急に倒れたら…と考えると、不安になります。

不安なのは当然です。だからこそ「パターン別の動き方」を事前に頭に入れておくことが大切。とっさのときは、知っていることしか実行できませんからね。
訪問リハの急変パターン別の対応方法
ここでは、訪問リハの現場で起こり得る代表的な急変を5つのパターンに分けて、対応例を紹介します。
1. 意識を消失したとき
想定シーン
リハビリ中に利用者が突然意識を失い、椅子から崩れ落ちる。顔色は蒼白で、声をかけても反応がない。
① 周囲の安全確保…体勢を整え、ぶつかる危険物がないか確認する。
② 意識・呼吸の確認…声かけや肩を軽く叩いて反応を確認。呼吸がない・普段どおりでなければ心停止を疑う。
③ 119番通報…反応がなければただちに救急要請。
④ 気道確保…仰向けにして頭部を後屈し、気道を確保する。
⑤ 心肺蘇生(CPR)…呼吸がなければ胸骨圧迫を開始。AEDがあれば使用する。
⑥ 家族・主治医へ連絡…状況を伝え、救急隊到着後に必要な情報を提供する。
2. 呼吸困難を訴えたとき
想定シーン
リハビリ中、利用者が突然胸を押さえ、息苦しそうにする。呼吸が荒く、会話が難しい。
① 楽な姿勢に調整…座位や半座位など、呼吸が楽になる姿勢をとってもらう。
② 気道閉塞の確認…のどに異物が疑われる場合は咳を促す。
③ 酸素の準備…訪問先で在宅酸素が使用できる場合は、指示の範囲で対応する。
④ 救急要請…呼吸数の低下や意識の混濁が見られたら、ためらわず通報する。
⑤ バイタル観察…呼吸数・脈拍・唇の色(チアノーゼ)を継続して観察する。
3. 心停止が疑われるとき
想定シーン
リハビリ中に突然倒れ、その後動かなくなる。呼吸も普段どおりでなく、反応がない。
① 反応の確認…声かけ・刺激で反応があるか確認する。
② 119番通報とAEDの手配…反応がなければ直ちに通報。家族や近隣者にAEDの手配を依頼する。
③ 胸骨圧迫を開始…呼吸がなければ、ただちに胸骨圧迫(CPR)を始める。
④ AEDの使用…AEDが届いたら音声ガイドに従って装着・使用する。
⑤ 救急隊へ引き継ぐ…到着まで蘇生を継続し、経過を正確に伝える。
「心停止かどうか判断がつかない」ときは、胸骨圧迫を始めて構いません。蘇生の開始が早いほど救命率は高まります。判断に迷う時間こそが最大のリスクです。
4. 転倒・外傷が起きたとき
想定シーン
利用者がバランスを崩して転倒。腕や脚を押さえて痛みを訴え、動くのが難しい様子。
① むやみに動かさない…無理に体勢を変えると、骨折などを悪化させる恐れがある。
② 外傷の確認…骨折や出血、変形の有無を観察する。
③ 簡易固定…患部をタオルやクッションで保護し、動きを制限する。
④ 頭部外傷の確認…頭を打っていないか、意識の状態に変化がないか確認する。
⑤ 救急要請…骨折や頭部打撲が疑われる場合は、ためらわず搬送を手配する。
5. 意識混濁・精神症状が急変したとき
想定シーン
利用者が突然混乱し、いつもの会話や動作ができなくなる。幻覚を訴えるような発言も見られる。
① 安全確保…周囲の危険物を取り除き、利用者を落ち着かせる。
② 家族・介護者へ連絡…症状を共有し、普段の状態との違いを確認する。
③ 症状の観察…発汗・痙攣・興奮など、症状の特徴を記録する。
④ 主治医へ連絡…薬の副作用や既往症の影響について相談する。
⑤ 救急要請…症状が悪化する前に、専門的な診断につなげる。
急変を防ぐために|運動前に確認したい中止の目安
急変への対応と同じくらい大切なのが、急変のサインを運動の前に見つけることです。厚生労働省の「介護予防マニュアル改訂版」(運動器の機能向上マニュアル)では、次のような場合は運動を実施しないこととされています。
| 確認項目 | 運動を実施しない目安 |
|---|---|
| 血圧(安静時) | 収縮期血圧180mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上 |
| 脈拍(安静時) | 110拍/分以上、または50拍/分以下 |
| 脈の状態 | いつもと異なる脈の不整がある |
| 症状 | 関節痛など慢性的な症状の悪化、体調不良の自覚症状がある |
訪問リハビリの現場では、利用者さんの普段の値を知っていることが大きな強みです。「いつもと違う」に気づいたら、無理に実施しない判断をし、必要に応じて主治医や訪問看護に相談しましょう。運動中の中止基準については、アンダーソン・土肥の基準を解説した記事も参考にしてください。
急変後に必要な報告と記録
急変や事故が起きたあとは、利用者さんへの対応が落ち着いてから、報告と記録を行います。運営基準では、事故が発生した場合に市町村、家族、ケアマネジャーなどへの連絡と必要な措置を行い、事故の状況と処置を記録することが求められています。
- 事業所への報告管理者に、発生時刻・状況・対応・搬送先を報告します。
- 関係者への連絡家族、ケアマネジャー、主治医、必要に応じて市町村に連絡します。
- 記録の作成事故報告書に、時系列で事実を記載します。推測と事実は分けて書きます。バイタルの値や時刻は、できるだけ正確に残しましょう。
- 振り返り事業所内で原因と再発防止策を話し合い、マニュアルを見直します。急変に対応した職員の心のケアも忘れないようにします。
本人の意思を事前に共有しておく
在宅で療養している方の中には、急変時に救急搬送や心肺蘇生を望まない意思を示している人もいます。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人の意思を尊重し、医療・ケアチームや家族とくり返し話し合うことの大切さが示されています。
リハ職が判断を一人で抱える必要はありませんが、急変時にどう動くかを事前にチームで共有しておくことが重要です。主治医の指示や家族の連絡先、救急要請の方針を、訪問看護やケアマネジャーと確認しておきましょう。方針が決まっていない場合は、迷わず救急要請するのが基本です。
このガイドラインは平成30年に改訂され、在宅や介護施設でも活用できるよう、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の考え方が取り入れられました。訪問リハビリの場面で本人の思いを聞いたときは、チームに共有することも、リハ職の大切な役割です。
急変時に共通する初動の流れ
パターンは違っても、急変時の初動には共通の型があります。次の流れを身体で覚えておくと、いざというとき落ち着いて動けます。
- 安全確保利用者と自分の安全を確保し、危険物を遠ざける。
- 反応・呼吸の確認声かけと観察で、意識・呼吸の状態を確かめる。
- 応援要請・119番通報異常があれば、迷わず救急要請と周囲への協力依頼を行う。
- 必要な処置心停止ならCPR、転倒なら固定など、状況に応じた処置を行う。
- 記録と引き継ぎ経過を記録し、救急隊・家族・主治医へ正確に伝える。
急変に備えて普段から準備しておくこと
急変対応の力は、当日その場で身につくものではありません。平時の備えこそが、いざというときの動きを決めます。次の準備を整えておきましょう。
・救急対応マニュアルの整備…対応手順や連絡先を明文化しておく
・シミュレーション訓練…AEDの使い方やCPRを定期的に練習する
・地域医療との連携…急変時に協力を得られる体制を構築しておく
・利用者の健康情報の把握…既往症・服薬内容・かかりつけ医を事前に確認する
よくある質問
セラピストが心肺蘇生を行ってもよいのですか?
はい。心肺蘇生(胸骨圧迫やAEDの使用)は、医療資格の有無にかかわらず、その場に居合わせた人が行うことが推奨されています。ためらわずに開始することが救命につながります。
救急車を呼ぶか迷ったときはどうすればよいですか?
判断に迷う場合は、救急要請を優先しましょう。地域によっては救急相談窓口(♯7119など)も利用できます。利用者の安全を最優先に、早めの判断を心がけてください。
急変対応のスキルはどこで学べますか?
消防署や日本赤十字社などが行う救命講習でBLS(一次救命処置)を学べます。事業所内でも定期的にシミュレーション訓練を行い、知識を更新し続けることが大切です。
訪問リハの急変に備えるおすすめの本・グッズ4選
急変時に落ち着いて動けるかどうかは、普段の準備で決まります。ここでは、バイタル測定の道具と、リスク管理・緊急時対応の知識をそろえるための本とグッズを選びました。
| 準備したいこと | おすすめ |
|---|---|
| SpO2・脈拍を測る | ①パルスオキシメーター FC-P01 |
| 血圧を測る | ②A&D 上腕式血圧計 UA-704 |
| 中止基準・急変時の初期対応を知る | ③リハ実践ポケット手帳(リスク管理) |
| 訪問現場での緊急・事故対応を学ぶ | ④訪問リハビリテーション アドバイスブック |
① 富士コンテック パルスオキシメーター FC-P01
運動前後や急変が疑われるときに、SpO2と脈拍をすぐ確認するための1台です。
- 医療機器認証を取得しているパルスオキシメーター(認証番号 第230AKBZX00069000号)
- 重さ約50gと軽く、訪問カバンに入れて持ち歩ける
- Amazonでレビュー数が非常に多く、使っている人が多い定番品
② エー・アンド・デイ 上腕式血圧計 UA-704
事業所の備品が足りないときや、自分用の測定器を持ちたい人に向く上腕式の血圧計です。
- 特定管理医療機器の認証を取った血圧計(認証番号 219AHBZX00017000)
- 測定方式はオシロメトリック方式で、ボタン操作で測定できる
- 国内の計測機器メーカー、エー・アンド・デイの製品
③ リハ実践ポケット手帳~PT・OT・STのリスク管理
記事で紹介した「運動前に確認したい中止の目安」を、疾患ごとに確認できる本です。
- 疾患ごとのリスク、治療薬の副作用、離床時の危険因子、リハビリ中止の基準、主治医へ報告するタイミングを要点に絞って解説
- 急変時の初期対応など、セラピストに必要な技術を載せている
- ポケットサイズで、訪問先でもすぐに確認できる
④ 訪問リハビリテーション アドバイスブック
病院と違い、一人で対応する場面が多い訪問リハならではのリスク管理を学べます。
- 「リスク管理と緊急時対応の技能」の部に、リスク管理とリハのバランス、緊急・事故対応、知っておくべき薬剤知識の章がある
- 訪問現場で活躍するセラピストを中心に、医師・看護師など多職種が執筆している
- 2018年発行のため、介護報酬などの制度部分は最新の通知で確認する
※本記事は一般的な急変時対応の考え方をまとめたものです。実際の対応は利用者の状態や事業所の取り決め、主治医の指示に従ってください。一次救命処置の手順は、最新の蘇生ガイドラインや救命講習で確認することをおすすめします。
- 厚生労働省「介護予防マニュアル改訂版」第3章 運動器の機能向上マニュアル
- e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)
※2026年10月時点で確認した情報です。制度は改定されるため、算定・運用の際は最新の通知・Q&Aと指定権者(都道府県・市町村)の案内をご確認ください。

