訪問リハビリの人件費率とは?公的統計の水準と適正化の考え方

「訪問リハビリの事業所の人件費率は、どのくらいが普通なの?」「人件費率が高いと経営は危ないの?」——訪問リハビリの管理者や経営に関わる人にとって、人件費率は事業所の健全性を判断する大切な指標です。
訪問リハビリは、PT・OT・STの人の力そのものがサービスであるため、支出の大部分を人件費が占める事業です。この記事では、厚生労働省の介護事業経営概況調査の数値をもとに、訪問リハビリの人件費率の水準を確認し、計算のしかた、人件費率が上下する要因、適正な人件費率を保ちながらスタッフの処遇も守るための考え方を整理します。
- 人件費率の意味と計算のしかた
- 公的統計で見る訪問リハビリの人件費率の水準
- 人件費率が上がる・下がる主な要因
- 人件費率と収支差率の関係
- 適正な人件費率を保つための運営の工夫
人件費率とは
人件費率とは、事業の収入に対して、人件費(給与費)がどのくらいの割合を占めるかを示す指標です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計算式 | 人件費率(%)=給与費 ÷ 収入 × 100 |
| 給与費に含まれるもの | 給与、賞与、法定福利費(社会保険料の事業主負担)、退職給付費用など |
| 収入に含まれるもの | 介護報酬(介護料収入)、保険外の利用料など |
たとえば、月の収入が130万円、給与費が86万円の事業所の人件費率は、86÷130×100≒66%です。

人件費率は低いほうが、経営としては良いんですか?

単純に低ければ良いとは言えないんだ。人件費率が低すぎると、スタッフの給与が低かったり、人手が足りずに一人ひとりに負担がかかっていたりする可能性がある。訪問リハビリは人がサービスそのものだから、「適正な水準」を保つことが大切なんだよ。
公的統計で見る訪問リハビリの人件費率
厚生労働省の「令和7年度介護事業経営概況調査」によると、訪問リハビリテーション(介護予防を含む)の1事業所あたりの収支は次のとおりです(決算額を12で割った月あたりの値)。
| 項目 | 令和5年度決算 | 令和6年度決算 |
|---|---|---|
| 収入(月あたり) | 約126.7万円 | 約128.5万円 |
| 給与費(月あたり) | 約83.1万円 | 約85.4万円 |
| 給与費の割合(人件費率) | 65.6% | 66.4% |
| 収支差率 | 11.8% | 10.8% |
つまり、訪問リハビリの事業所では、収入のおよそ3分の2が給与費に充てられているのが平均的な姿です。なお、令和4年度決算の給与費の割合は73.8%で、年度によって変動があります。事業所の規模や母体(病院・老健など)によっても数値は大きく異なるため、あくまで平均の目安として捉えましょう。
訪問リハビリは、大きな設備投資が少なく、支出の中心が人件費という特徴があります。人件費率は、経営とスタッフの処遇の両方を考えるうえで最も重要な指標の一つです。
人件費以外の主な支出
同じ調査(令和6年度決算)では、給与費のほかに、減価償却費が収入の約2.5%、その他の費用が約20.0%(うち委託費が約3.0%)となっています。支出の大半が給与費で、設備にかかる費用は比較的小さいのが、訪問リハビリの経営の特徴です。
人件費率が上がる・下がる主な要因
| 人件費率が上がる要因 | 人件費率が下がる要因 |
|---|---|
| キャンセルや利用者の減少で、訪問件数(収入)が減る | 訪問件数が増え、スタッフ1人あたりの収入が増える |
| 移動に時間がかかり、1日の訪問件数が伸びない | 訪問エリアの効率化で移動時間が減る |
| 加算の算定が少なく、1回あたりの収入が低い | リハマネ加算など、質に見合う加算を算定する |
| 診療未実施減算などの減算が多い | 医師の診療体制を整え、減算を減らす |
| 新人の教育期間で、訪問件数が少ないスタッフが多い | 経験を積んだスタッフが増え、効率よく訪問できる |
| 給与水準を引き上げる | (給与を下げると人件費率は下がるが、離職のリスクが高まる) |
人件費率と収支差率の関係
訪問リハビリでは、人件費率が上がると、そのまま収支差率(利益の割合)が下がる関係にあります。公的統計では、令和6年度決算で人件費率66.4%、収支差率10.8%でした。
人件費率を考えるときは、「収入を増やす」か「支出を減らす」かのどちらで調整するかが重要です。訪問リハビリの場合、給与を下げて人件費率を下げると、離職によってかえって収入が減る悪循環に陥りやすいため、収入側(件数・加算・減算の削減)で改善する考え方が基本になります。
人件費率の改善のシミュレーション
月の収入130万円、給与費86万円(人件費率約66%)の事業所を例に、改善策ごとの変化を見てみましょう(金額は説明のための概算です)。
| 改善策 | 収入の変化 | 人件費率 |
|---|---|---|
| 現状 | 130万円 | 約66% |
| キャンセルの振替などで訪問回数を5%増やす | 約136.5万円 | 約63% |
| リハマネ加算などの算定で収入を3%増やす | 約134万円 | 約64% |
| 両方を実施 | 約140.6万円 | 約61% |
給与費を変えなくても、収入を少し増やすだけで人件費率は下がり、利益に余裕が生まれます。その余裕を、スタッフの処遇や教育に還元できると、定着にもつながります。
適正な人件費率を保つための運営の工夫【実践編】
- スタッフ1人あたりの訪問回数を把握する月の延べ訪問回数を常勤換算のスタッフ数で割り、事業所の生産性を確認します。
- 移動の効率を上げる訪問エリアを地区ごとにまとめ、移動時間を減らします。
- キャンセルの影響を減らす振替の調整や、キャンセル待ちの利用者の把握で、空いた枠を埋めます。
- 質に見合う加算を算定するリハビリテーション会議や情報提供など、要件となる取り組みを行い、加算を算定します。
- 減算を減らす事業所の医師の診療体制、BCP・虐待防止の措置を整え、減算を防ぎます。
- 処遇改善加算を活用する令和8年度の期中改定で訪問リハビリにも新設された処遇改善加算を算定し、スタッフの給与改善に充てます。
人件費率とあわせて毎月見たい指標
| 指標 | 見るポイント |
|---|---|
| 延べ訪問回数 | 収入の基本。前年同月や前月と比べる |
| スタッフ1人あたりの訪問回数 | 生産性の目安。スタッフ間の偏りもあわせて確認する |
| 訪問1回あたりの収入 | 加算の算定状況や減算の影響を反映する |
| キャンセル率 | 季節や感染症の流行で変動する。振替の実施状況も確認する |
| 残業時間・有給取得 | 人件費率だけでなく、スタッフの負担の偏りがないかを見る |
人件費率を見るときの注意点
- 病院・老健に併設の事業所では、医師や事務職員の人件費の配分方法によって数値が変わる
- 新規開設の時期や、スタッフを増やした直後は一時的に人件費率が上がる
- 月ごとの変動が大きいため、年間や数か月の平均で見る
- 同じ地域・同じ規模の事業所の平均とも比べてみる
よくある質問
訪問リハビリの人件費率は何%くらいが目安ですか?
公的統計では、令和5年度決算で65.6%、令和6年度決算で66.4%が平均です。事業所の規模や母体によって差があるため、平均と比べつつ、自事業所の推移を見ることが大切です。
人件費率が70%を超えると危険ですか?
一概には言えませんが、平均より高い状態が続くと、ほかの経費をまかなう余裕が少なくなります。訪問件数、加算、減算、キャンセルの状況を確認し、収入面から改善できる点を探しましょう。
処遇改善加算を算定すると、人件費率はどうなりますか?
処遇改善加算は収入として入り、その分を賃金改善に充てるため、収入と給与費の両方が増えます。加算の趣旨に沿って、スタッフの賃金改善に確実に配分することが求められます。
人件費率は、月ごとに見るべきですか?
月ごとの変化を見ることは大切ですが、賞与の支給月やキャンセルの多い季節などで大きく変動します。月次の推移とあわせて、年間や数か月の平均でも確認しましょう。
スタッフを増やすと、人件費率は必ず上がりますか?
増やした直後は、訪問件数が追いつくまで人件費率が一時的に上がることが多いです。新規依頼を受けきれずに断っている状況であれば、増員によって収入も増え、中長期的には人件費率が安定することもあります。
病院に併設の事業所では、人件費率をどう計算すればよいですか?
医師や事務職員が病院と兼務している場合、その人件費をどの程度訪問リハビリ部門に配分するかで数値が変わります。法人内で配分のルールを決め、毎年同じ基準で比較できるようにしましょう。
人件費率を下げるために、非常勤スタッフを増やすのはよい方法ですか?
非常勤スタッフは件数の増減に合わせやすい一方、教育や情報共有の負担が増えたり、担当の継続性が保ちにくくなったりすることもあります。人件費率だけで判断せず、サービスの質や常勤スタッフの負担も考えて体制を決めましょう。
まとめ|訪問リハビリの人件費率は約3分の2。収入側で改善する
厚生労働省の介護事業経営概況調査では、訪問リハビリの人件費率(給与費の割合)は令和6年度決算で66.4%、収支差率は10.8%でした。人の力がサービスそのものである訪問リハビリでは、給与を削って人件費率を下げるのではなく、訪問の効率化、加算の算定、減算の削減、キャンセルへの対応といった収入側の工夫で、適正な人件費率と働きやすさを両立させることが大切です。数字はスタッフとも共有し、事業所の運営を一緒に考える材料として活用しましょう。
- 人件費率=給与費÷収入×100。訪問リハビリでは約66%(令和6年度決算)
- 収入のおよそ3分の2が給与費に充てられ、収支差率は10.8%
- 件数・移動・加算・減算・キャンセルが人件費率を左右する
- 給与を削るより、収入側で改善するのが基本
- 処遇改善加算を活用し、スタッフの処遇改善と経営を両立させる
- 訪問回数・1回あたり収入・キャンセル率などの指標とあわせて毎月確認する
- 厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)資料4「訪問リハビリテーション」
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第253回)資料1「令和8年度介護報酬改定について」
※2026年10月時点で確認した情報です。制度は改定されるため、算定・運用の際は最新の通知・Q&Aと指定権者(都道府県・市町村)の案内をご確認ください。

